暦の上ではすっかり初夏で、熱と湿気が夜にも紛れ込んできた。この時期は凍えることなくバイクを飛ばせる、ライダーが愛してやまない季節だ。常連さんの中には、バイクで繋がる方たちもいて、今回はそんなお客さんとの話をしたい。もちろん、いつも通り仮名だが。
バイク屋のオヤジさんの話
ハヤシさん、アリタカさん、ハタさんは、お互い関係のない仕事をしているが、地元育ちのバイク好きということでうちにも良く飲みに来てくれている。私より年下の40代トリオは、最近お世話になっているお店の代替わりについて話していた。
ハヤシさん:そういや、キャブレターのメンテをよ、あのバイク屋で頼んだらうちはできねえって言ってきたんだよ。
ハタさん:ああせがれさんの方は、そういうのやらないらしいな。オヤジさんならやってくれるんじゃないか?
ハヤシさん:いやどうも、あのオヤジは調子悪くしているみたいで、まあ年だしな、店に出てこないんだよ。
ハタさん:俺らがバイク買う時からもうオヤジさんは年だったしな……心配だな。でもそれじゃ、メンテできないな。
アリタカさん:若い人だと、キャブのメンテナンス断ってバイク買い替えた方がいいですよって進めてくるしな。困ったもんだね。
私:オヤジさん、この前こちらにいらっしゃいましたよ。ウィスキー頼んでゆるゆる飲まれていましたし、調子は良いみたいでしたが。
ハヤシさん:え、そうなんだ。調子良さそうなら嬉しいな。今度頼めるか聞いてみようかな。
私:なんでも、昼は暑くて出たくないそうですよ。夜に店番変わるらしいので、その時が良いかもしれませんね。
バイクへの想いは募るばかり
困っているトリオに助け船を出してから一週間、ハヤシさんは無事にメンテナンスをしてもらえたみたいだった。
ハヤシさん:マスターありがとな、オヤジさんも悪い悪いつってすぐやってくれたよ。俺のZ1が見違えたわ。
アリタカさん:オヤジさんは腕、本当にいいからな。まあでも、やっぱりそろそろ年齢的にきついことはきついんだろな。
ハタさん:もう80ぐらいか? 俺たちも習っておけば良かったな。でも、なかなか時間もないし、あれぐらいできるのはさすが本職だよな。真似は難しいか。
アリタカさん:いつかはメンテできなくなっちまうんだろうな、寂しいな。せがれさんが面倒なメンテナンス、今更身に着けるとは思えないし。
ハヤシさん:まあ、あそこでお世話になったんだ。オヤジができなくなったら、残念だけど手放すよ。宝物みたいなバイクだけど、壊したら目も当てられねえ。それなら、どこかでもっと大事にしてくれる人に使ってもらいたいんだ。まあ、大手のバイク買取ショップとかの方がちゃんとしているんだろうから、そこで売るだろうな。
私も過去に手放したバイクがあったが、あれは今も大事に使われているのだろうか。どういったことにも別れがくる中で、次にきちんと引き継がれればと思わずにはいられない。
オヤジさんが元気なうちに、リターンライダーになってしまうかも、とどこか頭によぎりつつ。