バーのマスターをしていると、人の恋愛模様を覗き見てしまうこともある。お酒というのは、秘密を滑らせる潤滑油のような効果があるからで、私としても不可抗力といったところだが、これも仕事としてはよくあることだ。
「彼女に他の男がいる気がする」
今回は、とある男性、イチロー(仮名)と友人のジローとしておこう。もちろん2人とも本名ではない。しかも、性別や年齢が違ったり、時系列もいつかはわからないようにしてお客個人には結びつかない。ほとんど、創作のようなものだが、客商売なので、そこはご了承いただこう。
人によってはこういう書き方もどうかと思うかもだが、簡単であるが許可もとった上でなので安心してほしい。そこまでして書かなくてもと言われたことがあるが、そうでもないと毎日食べた昼ご飯の話ぐらいしかここに書くことがないのだ。
イチロー:最近、彼女が冷たいんだけど、他の男がいる気がするんだ。
ジロー:え、マジで。この前まで結婚するとか言っていなかったっけ。
イチロー:そうなんだよ、同棲もしていてさ。でも帰る時間が遅くなってさ、記念日とかも前まであんなに張り切っていたのに、そんな感じしなくなったんだよ。
ジロー:あらら、それはちょっと怪しいな。
イチロー:今日も帰れないって言ってさ、は~落ち込むわ。でも聞きづらいしさ。
ジロー:マスター、こいつにカクテル一杯やってくれる? 俺の奢りでいいからさ。
こういった瞬間は、とてもバーのマスターとして試されていると感じる。今回は励ますということを加味して作るカクテルということで……さて私は何を作っただろうか。
これはわかる人にはすぐわかるかもしれないが、ジンフィズにした。カクテル言葉は「あるがままに」。ベタベタのコテコテと笑われるかもしれないが、こういった時はシンプルな方がいいと考えている。
イチローは少し思い込んでいる節があり、答えを先に決めている気がしたからだ。まずは、自分を見失っていることを自覚した方がいいのではと気持ちを込めた。
イチロー:そうですね、ちょっと思い込みすぎているかもしれません。ありがとうございます。
ジロー:そうだ。ちゃんと話し合ったほうがいいよ。どういうことにせよ、良いにせよ悪いにせよ、今よりははっきりするぞ。もちろん、良いほうがいいけどさ。
無事にハッピーエンドへ
私もジローの言葉に同意するように頷きながら、男同士の友情というのもこうやって見れるのは良いものだなと思うのだった。
後日の話だが、無事に関係は修復できたらしい……という話を聞いたので、書いている。なかなか、私もやるものだと自画自賛したのは言うまでもない話だ。