人の生きざまを聞くというのは、とても楽しい。人間の人生は長いが、それでもできることには限りがあるからだ。人の仕事を聞くというのは、自分が本来体験できなかった経験を聞くということで、ワクワクしてしまうのだ。
「挑戦しないと停滞してしまう」
今日は常連のシゲサト(仮名)を紹介しよう。蕎麦打ちの名人で、陶芸家でもあるシゲサトは白髪の長髪を後ろで結び、仙人めいた髭を伸ばしている。いつも美味そうに竹鶴をロックやストレートで飲む。ぐっと飲むときもあれば、ちびちびと飲むときもあり、さまざまな味わい方で酒を楽しむ人だ。
私よりも年上だが、誰にでも気さくで、若い人を見れば、とりあえずとばかりに一杯奢る癖がある。あとめっぽう女性に弱い。女性グループに奢り続け、一回だけ一部をツケにしたこともある。こういうお茶目なところもあるのが魅力のお客さんなのだ。
私は過去に蕎麦打ちと陶芸って似ているのかと聞くと、シゲサトは笑いながら答えた。
シゲサト:ない! と言ったら、納得するかぁ~? あるよあるある、どっちも水使ってこねるからな、一緒一緒。でもまあ、蕎麦はすぐ食えるのがいいな! 出来不出来がすぐわかるのはいいぞ!
豪快に笑いながら話すもので、そういうものかと頷いてしまう。なんでも、陶芸は焼き上がり見るまでは上手くいっていると思ってもそうでないこともあるらしい。
シゲサト:乾燥させるまでに時間かかるし、焼いたときも、釉薬やらなんやらで思ったとおりじゃねえなと思うこともあるしな。いや俺もこれで飯食っているからある程度は安定させられるよ。でも挑戦しないと停滞するから、やっぱそういうのは上手くいかねえことが多いわけよ。
わからないこともない。私もカクテルを作るときにステアやシェイク、色々なところに気を配るし、新しいレシピを試す際やオリジナルをテストする時も失敗することが多い。
シゲサト:弘ちゃんは大丈夫! 普通に安定して美味いから! まあ俺、ロックとストレートばかりであんまりカクテル飲まねえけどな! でも、丁寧で良いと思っているよ! あ、竹鶴お代わりな!
何だかんだシゲサトの存在に救われることもある
どうも煙に巻かれた気持ちになりながらも、また美味しそうに竹鶴を飲むシゲサトを見るとまあいいかという気持ちになる。良いお客さんに恵まれた。そんな気持ちだ。
ちなみに蕎麦は本当に美味しく、私はここ何年かシゲサトから年越し蕎麦をいただいている。そのうちまたツケ頼むかもしれないから、とタダで渡されると「人たらしだな」と思うのだった。