朝食は軽めに済ます
梅雨明けの夜、静かな雨が降り続ける中、私はカウンター越しにグラスを磨いていた。外の景色が窓に映り込み、街灯の光がしっとりとした雨粒に反射して美しい輝きを見せている。この時間帯になると、常連客たちが次々と顔を見せる。そんな中、ドアが開いて、いつもと変わらぬ顔ぶれに一人新しい顔が加わった。
いつものコーヒーとトーストがルーティン
その新しいお客は、中肉中背で清潔感のある紳士だった。彼は静かにカウンターに腰を下ろし、メニューに目を通しながら、しばらく思案していた。やがて彼は私の方を見上げ、穏やかな笑みを浮かべて注文をした。
「ホットコーヒーを一杯、お願いします。」
私はうなずき、彼にコーヒーを提供する間に、自然と会話が始まった。
「初めてのお客さんですよね?どうしてこのバーに?」と私は問いかけた。
「ええ、実は近くのホテルに泊まっているんです。仕事でこの辺りに来ることが多くて。今日はちょっと一息つきたくて、こちらに寄ってみました。」
彼の名前は田中さん。40代後半のビジネスマンで、全国を飛び回る忙しい日々を送っているという。会話が進む中で、彼の朝食の話題に移った。
「朝食はどんな感じで済ませているんですか?」と私は興味深そうに尋ねた。
田中さんは微笑みながら答えた。「実は毎朝、コーヒーとトーストだけなんです。それがもう何年も続いている習慣ですね。」
「それだけでエネルギーは足りますか?」と私はさらに問いかけた。
田中さんはコーヒーカップを手に取り、一口飲んでから話し始めた。「そうですね。実は、京都府立医科大学の研究で、朝食にコーヒーとトーストを摂る人はメタボが少ないという結果が出ているんですよ。僕自身、その研究を知ってからますますこの習慣を大事にしているんです。」
私は興味をそそられた。「それは面白いですね。その研究についてもう少し詳しく教えていただけますか?」
田中さんは続けた。「その研究は、日本人を対象にしたもので、コーヒーや緑茶の摂取量とメタボリックシンドローム(Met-S)との関連を調べたものです。結果として、コーヒーを1日1回以上飲む人は、内臓脂肪型肥満やMet-Sの有病率が有意に低いことがわかったんです。特に朝食にパンを食べる習慣がある人は、さらにそのリスクが低いということです。」
私は感心した。「それは確かに健康に良さそうですね。忙しいビジネスマンにとっても、手軽で続けやすい朝食スタイルですね。」
田中さんはうなずいた。「そうなんです。仕事で忙しいと、ついつい朝食を抜いてしまいがちですが、このシンプルな朝食が僕にとっては一日のエネルギー源なんです。」
私は彼の話に耳を傾けながら、ふと自分の朝食習慣を振り返った。忙しい朝だからこそ、手軽で健康に良い習慣を取り入れることの重要性を再認識した。
「田中さんの話を聞いて、私も明日から朝食を見直してみようかなと思いました。」と私は笑いながら言った。
田中さんはにっこりと笑って、「ぜひ試してみてください。きっと体調も良くなるはずです。」と応じた。
その夜、田中さんは静かにバーを後にした。彼の話を聞いて、私はこのバーでの出会いがまた一つ、自分自身の生活にも影響を与えることを実感した。毎日を忙しく過ごす中でも、自分に合った健康習慣を見つけることの大切さを感じながら、静かにグラスを磨き続けた。
それは、心にしみ入るような静かな夜の一コマだった。